食道アカラシアについて

食道と胃の境界には下部食道括約筋(Lower Esophageal Sphincter:LES)の機能が障害され、LESが弛緩せず、食事の通過に問題をきたす疾患が「食道アカラシア」です。人口10万人あたりに1人という、まれな病気で、現時点では原因は不明です。食道やLESの神経細胞の変性・減少がその一因ではないかと考えられています。

アカラシアの診断は食道運動機能検査(食道内圧検査)という特殊検査によって行われます。
この検査ではLESの圧や働きのほか、食道の運動が正常かどうかの判定を行います。最近ではハイリソリューションマノメトリー(HRM)という最新型の機器の登場によりさらに詳細な検討が可能となりました。治療方法には大きく下記内容があります。

1. 薬による治療

LESの圧を下げる作用のあるカルシウム拮抗薬、亜硝酸製剤などを用いますが、あまり効果的ではありません。カルシウム拮抗薬は、本来、血圧を下げる薬剤であるため、血圧の低い方には投与することができません。

2. 内視鏡を用いた治療(バルーン拡張, 経口内視鏡的筋層切開術Per-Oral Endoscopic Myotomy:POEM)

内視鏡下にLESをバルーンで広げる治療です。一部の患者さんには有効なこともありますが、繰り返し行う必要があります。また、最近では内視鏡を用いた新しい治療(POEM:内視鏡的筋層切開術)が開発され、一部の施設で行われ、良好な成績であることが報告されておりますが、現時点で当院では行っておりません。

3. 手術による治療

当院では通過障害を解除しつつ逆流も防止可能な手術療法を積極的に行っております。まず、通過障害を改善する目的で、食道から胃にかけて筋線維(筋層)を切開します(Heller:ヘラー手術)。食道の前面は粘膜・粘膜下層だけとなり、粘膜は非常に軟らかいため食事の通過は良好となり、つかえ感などの症状はほとんど消失します。しかし、このままだと今度は逆に胃から食道にものが逆流するようになってしまいます。このため、胃の一部を食道に巻き付けて、逆流を防止する機構を作成します(Dor:ドール法)。当科では,腹腔鏡を用いて、鉗子とカメラを入れるだけの小さな傷で手術を行う、低侵襲な内視鏡手術を積極的に行っております。
術後は、絶食が必要ですが、食道造影検査で問題ないことを確認し、数日の間に食事を再開することができます。その後、食事の食べ具合と、キズの痛みの程度をみながら、退院の日を決めていきます。大体、術後7日から10日くらいで退院することができます。退院後は約2週間後に外来を受診していただき、食事の食べ具合と逆流症状の有無などをチェックさせていただきます。

胃食道逆流症・食道裂孔ヘルニアについて

下部食道括約筋(LES) の締りが悪く逆流防止機構が障害された疾患が「胃食道逆流症(GERD)」です。逆流した胃酸によって食道の粘膜が炎症を起こし、多くの人に逆流性食道炎を起こします。胃食道逆流症の原因となる主な疾患として、「食道裂孔ヘルニア」があげられます。胸部と腹部の間にある横隔膜には、食道が通る食道裂孔という孔(あな)があいていますが、この食道裂孔が大きくなって胃の一部が胸の方へ飛び出してきてしまうことがあります。この状態を食道裂孔ヘルニアと言います。ご高齢の方、特に円背のある方や肥満の方などでよく認められる疾患です。食道裂孔ヘルニアを合併した場合、LESの締りが悪くなり、GERDや逆流性食道炎を発症しやすくなります。

逆流性食道炎の診断には、胃カメラ・24時間食道内pHモニタリング検査・食道運動機能検査(食道内圧検査)が必要です。胃カメラでは、食道粘膜の炎症の有無と程度がわかります。24時間食道内pHモニタリング検査は、食道内のpH測定を24時間持続的に行うことにより、逆流の程度、時間帯など、様々な情報が得られます。食道運動機能検査(食道内圧検査)は、鼻から細長いセンサーを胃内まで挿入して、食道内の圧の変化を観察し、食道の運動機能を調べる方法です。検査時間は約15分で、胃カメラよりは苦しくなく終わる検査です。

1. 薬による治療

胃酸の分泌を抑える薬剤によって、胸やけなどの症状を抑え、食道炎が改善します。逆流性食道炎は慢性疾患であるため長期的にお薬を服用する場合があります。逆流性食道炎を放置しておくと、バレット上皮が出現し、バレット食道腺癌というがんになるリスクがあります。必ず経過観察、治療を受けるようお薦めします。

2. 外科的治療(手術)

内服治療でも効果がみられない場合、逆流を防止するための手術が必要となります。食道裂孔ヘルニアをもっている患者さんではまず胸の中にあがった胃をお腹の中に戻します。つぎに緩んで大きくなった裂孔を縫い縮めます。そして胃で食道を巻きつけ、新たな逆流防止機能が形成します。食道を胃で全周性に巻き付ける方法をNissen手術(ニッセン法)、食道の後ろを中心に約2/3周巻き付ける方法をToupet手術(トゥーペ法)と言います。当施設では、患者さんの年齢や逆流症状の程度などによって使い分けています。当科では,腹腔鏡を用いて、鉗子とカメラを入れるだけの小さな傷で手術を行う、低侵襲な内視鏡手術を積極的に行っており,さらに、ダ・ヴィンチを用いたロボット支援下腹腔鏡下Nissen噴門形成術を行った実績があります。ロボットを用いることで、手術操作が安定し、より侵襲を抑えた、確実な手術が可能になると期待されます。

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