第31回日本内視鏡外科学会総会に参加しました。

 福岡で開催された内視鏡外科学会に参加しました。今回は教育セミナー受講が主目的であったので演題発表はありませんでした。内視鏡外科学会は今回が初めてでしたが、プログラム、参加人数の多さに驚きました。多くは消化器外科分野の演題でしたが、心臓血管外科、呼吸器外科、小児外科、泌尿器科、頭頚部外科など多彩なプログラムが用意されていました。

 

印象に残ったプログラム

高難度胸腔鏡下手術における工夫
 Berbed sutureを用いた連続縫合による気管支吻合の発表が複数ありました。他には、完全胸腔鏡下の血管形成(抄録)の発表を期待していましたが、小開胸をおいてstaplerを深くかけただけというもので失望しました。他にもあった完全鏡視下の血管形成という演題はすべて看板に偽りありで、やはり鏡視下血管形成はChallengingであると再認識しました。セッション最後の、伊達先生の「このような(高難度の)手技は安全に遂行可能である、というのではなく、どうしたら安全に遂行できるのか、という主旨の発表が望ましい」との言葉に非常に感銘を受けました。

甲状腺内視鏡手術 保険収載完了後の更なる発展のために
 Younsei Univ.のProf. Chungのロボット手術の発表がありました。10年余りで6500例の手術をされたようですが、手術適応がやや疑問を感じるものでした。腋窩アプローチによるロボット手術は頑張れば通常の鏡視下でもできそうです。国内からの演題は、残念なことに、秋から続く甲状腺外科学会、臨床外科学会、そして本学会と、同一の発表が多くみられました。その多くはおそらく指定演題なのでしょうが、非常に残念でした。ともかくも、国内の甲状腺内視鏡手術の第一人者とされる先生たちに負けない手術の質で、日本のトップレベルになる努力を続けていこうと思います。

内視鏡下心臓手術の幕開け
 一部の病院による好事家向きの手術と思っていたロボット支援下心臓手術ですが、多くの多症例施設で導入され、MICSを凌ぐ勢いのようです。局所進行肺癌での血管形成などでもロボット手術は今後導入されていくと思われ、われわれもロボット手術に習熟していくことは避けられません。また、心臓外科医がMICSで鏡視下にうまく弁形成を行う動画をみて、彼我の技術の大きな差を痛感しました。

Cadaverによる手術教育の現況と未来
 平成30年よりCadaver Trainingの予算が大幅に増加したようです(実践的な手術手技研修事業、徳島大学にも交付)。厚労省も事業に前向きとのことで、今後さらに実施施設が増えそうです。他施設の発表はThiel法固定ばかりであり、どうやらこちらが主流のようです。岡山大学では固定の状態を改善するために色々な方法を試行したり、出血のシミュレーションのためにポンプをつけて脈管還流を再現したりと、素晴らしい工夫をこらしていました。当院では凍結法(未固定)ですが、Thiel法固定も色々メリットがあると思いました。Cadaver trainingは普段みえない視野が経験できる、という言葉が印象でした。実臨床と同じ手術をするだけではない、新たなトレーニングを組み込むことが重要です。

 

 内視鏡手術に多くの可能性を感じた学会でしたが、膨大な演題数が故か、同じ演者による過去の学会と同じ発表や、質の高くない上級演題が多くみられた学会でした。背景・経験の少ない演者が無理やりSY, PDで発表することや、同一の発表を同じ聴衆に何回も発表することの意味について色々考えさせられました。今後の自分の演題登録の姿勢についても自戒したいと思います。

 (記:坪井光弘)

2018.12.10