第71回日本胸部外科学会定期学術集会に参加しました。
2018年10月3日~6日にグランドプリンスホテル新高輪で開催された第71回日本胸部外科学会定期学術集会に参加しました。当科からは丹黒 章先生とわたくしが参加しました。
今回は、東京医科歯科大学心臓血管外科教授の荒井裕国先生が会長を務められ、”Scientific Creativity”というテーマが示すように、発表形式やセッション構成にたくさんのCreativeな工夫が盛り込まれた学会となっていました。特に、Techno-Academy とSurgical Colosseumという企画が目新しく、Techno-Academyでは、各領域の主要トピックをたくさんの海外招請演者と国内のエキスパートが講演し、最先端の情報にたくさん触れることができました。また、Surgical Colosseum は、治療に難渋した症例をカンファレンス形式で徹底討論するという企画で、演者は円形会場の中央に立ち、四方八方を聴講者に取り囲まれ、四方八方から質問されるという非常に刺激的で、activeなセッションとなっていました。胸部外科学会では毎年のことですが、食道外科関連のセッションは縦一列で朝から晩までずっと続いていくプログラムですので、会場を移動することなく、延々と食道関連の内容に漬かっていることができます。そのため、日本中の著名な食道外科医が一部屋に終結し、延々と熱い討論が繰り広げられます。
しかも、こともあろうに今回わたくしは、光栄にもメインイベントである、シンポジウム「アプローチ法からみた食道癌手術の現状と展望」というセッションに採択され、当科で積極的に行っている縦隔アプローチと胸腔アプローチを併用したハイブリッド術式の発表をさせていただきました。同セッションは、東京大学の瀬戸先生と群馬大学から福岡市民病院に移られた桑野先生が座長を務められ、演者は、静岡がんセンター、埼玉医大、大阪市立大学、金沢大学、東北大学、群馬大学、浜松医大、京都府立医大と、名だたる先生方の中に名を連ねることができました。会場には食道外科医ならだれでも知っている有名な先生方が、ずらーりとお集まりになっており、非常な緊張のなか発表してきました。
今回、本年度から保険収載された縦隔鏡手術を、進行食道癌であっても積極的に採用し、胸腔アプローチと併用することによりその弱点を補完することができる、といった発表をさせていただきました。これまでの当院での手術術式の変遷にも触れ、これが丹黒先生の食道手術の集大成だ!という心意気で発表に臨みました。発表後は、保険収載の立役者となった瀬戸先生から、今後、縦隔鏡手術の普及に努めましょうといったお言葉をいただき、大変充実した発表になりました。
その後も食道の一般口演、パネルディスカッションと食道漬けになり、夜からは、毎年恒例の「食道困難症例検討会」が開催されました。例年は、別会場で、お酒を飲みながら、合併症や偶発症で大変苦労した症例を報告し、最も辛い思いをした発表者が優勝賞品をいただくというざっくばらんな会、のはずでした。ところが、今年は、学会終了後、同じ会場で開催され、お酒は振舞われず、まるで学会の延長のような厳かな雰囲気で始まりました。
例年の雰囲気を想定して、おもしろスライドを作成してきた発表者の先生方は、想定外のまじめな雰囲気に、動揺されていましたが、会が進むにつれ、みなさん活発にざっくばらんに意見を言い合うようになりました。
東北大学から、再建胃管に発生した潰瘍が心嚢に瘻孔を形成し、胃管抜去術の最中に冠状静脈洞が破綻し、大出血をきたしたという症例で、最終的に人工心肺を回して、心膜パッチで救命できたという症例が報告され、次いで、埼玉医大からは、有茎空腸再建の再建空腸が虚血壊死に陥り、再手術を行ったが、残った空腸間膜に流入するSMAの分枝が、第2空腸動脈より末梢に1本もなかったという驚きの報告がありました。結局は、長めに残っていたY脚の空腸を流用するという裏技で再建できたという報告でした。三井記念病院からは胃管壊死の報告、北里大学からは食道癌術後の気管肺動脈廔の報告、岡山大学からは気管浸潤で窒息寸前だったが、即座にDCF療法を行い、気管ステントも置かずに改善し、最終的に根治手術までできちゃったという驚きの報告でした。最終的には、埼玉医大の先生が優勝しましたが、どれも興味深い発表ばかりで、自分の日常診療に参考になりました。
翌日は丹黒先生が司会を務められる教育講演に参加したのち、午後に帰路につきました。ところが、台風25号の影響で、搭乗予定であったJAL便が突然欠航となり、それ以後のJAL便も飛ぶかどうか分からないうえに、あっというまにすべて満席になるという状況に陥りました。同じ便で帰る予定であった丹黒先生とともに羽田空港に向かいながら対策を講じました。丹黒先生の対応は驚くほど迅速で、奥様を通じて、即座にANAの最終便の確保、JALのキャンセル待ち、万が一の宿泊先の確保まで一瞬でされており、さすが!と思いました。わたくしの方は楽天トラベルの格安チケットなもので、空港で変更もできずに、もたもたしているうちにANAの予約もどんどん満席になり、危うく帰れないところでした。最終的に、ANAの最終便がなんとか確保でき、丹黒先生と一緒に帰ってくることができました。最終便まで時間がたっぷりあったので、丹黒先生と二人きりでいろんなお話ができて、大変充実した貴重な時間を過ごすことができました。
今回は、日本胸部外科学会のシンポジストという大役を無事に終え、2日間食道漬けになり、最後に丹黒先生と濃密な時間を過ごすことができました。一回り大きくなって帰ってくることができたような気がします。今回の経験を活かし、今後も、さらなる飛躍を目指して、日々精進したいと思います。最後になりましたが、留守をお守りくださった病棟スタッフの先生方、貴重な機会を与えてくださった丹黒先生に感謝いたします。
文責 西野豪志(平成16年卒)
東京品川のグランドプリンスホテル新高輪にて第71回日本胸部外科学会定期学術集会が開催されました。
私(井上)は、今回、学会発表はありませんでしたが、名誉のある表彰式に参加しました。10月3日に評議員会が開かれ、その会の終了後に各種表彰式が行われました。
今回、以前に応募していた第一回目である日本胸部外科学会研究助成 JATS Research Project Awardの若手部門に選出されました。合計4名の会員が選出され、食道部門では私一人だけでした。テーマは、「食道癌における抗癌剤耐性化機序の解明と分子標的治療薬の開発」です。評議員会の会場の檀上に上がり、著名な先生方が大勢おられる中、会長から一人ずつ表彰していただき、徳島大学 胸部・内分泌・腫瘍外科を全国にアピールできたと思いました。そして、千葉大学の呼吸器外科の先生と仲良くなり、研究について二人でいろいろと語り合いました。新しい研究仲間もでき、貴重な経験でありました。
大変光栄なことであり、今後の研究の原動力として頑張っていきたいと思います。ご指導いただいた先生方、これからも頑張っていきますので、どうかご指導のほどよろしくお願いします。
井上聖也
【発表演題】
《ポスター3》縦隔・胸膜
座長 近藤和也
《Postgraduate Course4》食道コース
座長 丹黒 章
《シンポジウム》縦隔鏡下食道癌根治術を目指した縦隔鏡・胸腔鏡ハイブリッド食道切除術
西野豪志,吉田卓弘,井上聖也,後藤正和,武知浩和,清家純一,丹黒 章