乳がんと遺伝について

がんの発症には「環境要因」と「遺伝要因」が関連しています。乳がんの遺伝要因にはさまざまなものがあることが知られていますが、その中で特に強く乳がんの発症に関係している遺伝子(乳がんになりやすい体質の遺伝子)があることがわかっています。父親あるいは母親から、このがんになりやすい体質の遺伝子の変異を受け継いで発症する腫瘍を遺伝性腫瘍といいます。表1に乳がんを含む代表的な遺伝性腫瘍の特徴をまとめました。遺伝性腫瘍を発症しても、治療法に大きな違いはなく非遺伝性腫瘍と同じく手術によってがんを切除します。その一方で遺伝性腫瘍では若年から特定臓器にがんが生じやすくなるため、その管理について通常とは異なる方針が求められます。

(表1)乳がんを含む代表的な遺伝性腫瘍
遺伝性乳がん
卵巣がん症候群
Li-Fraumeni
症候群
Cowden
症候群
遺伝性
びまん性胃がん
割合 1/200 1/20000 1/100000
責任遺伝子 BRCA 1/BRCA 2 TP 53 PTEN CDH 1
起こりうる
腫瘍
乳がん
男性乳がん
卵巣がん
膵臓がん
前立腺がん
軟部組織肉腫
骨肉腫
閉経前乳がん
脳腫瘍
副腎皮質がん
白血病
乳がん
甲状腺がん
子宮内膜がん
胃がん
乳がん
(小葉がん)

遺伝性腫瘍に対する当科の取り組み

  • 初診時に問診票と遺伝性腫瘍に対するアンケート(表2 かんたんチェック:日本HBOCコンソーシアム(http://hboc.jp/)に記載をお願いしています。
  • 遺伝性腫瘍が疑われる患者さんには臨床遺伝診療部での遺伝カウンセリングをおすすめしています。
  • 希望された方には遺伝学的検査(血液検査)を行います。
  • 遺伝性腫瘍が確定した場合は術式など治療方針に反映させます。
  • 早期に新たながんの発症をみつけるため継続的に検査を行います。
  • 希望があれば遺伝性腫瘍が確定した患者さんのご家族にカウンセリングを行います。
  • 患者さん、ご家族の精神的サポートを行います。

(表2)
かんたんチェック

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)とは

BRCA1遺伝子もしくはBRCA2遺伝子のどちらかの病的な変異で発症する乳がんで、頻度は乳がん患者の5-10%です。親の遺伝子変異を子供が受け継ぐ確率は50%(常染色体優性遺伝)です。女性乳がんや男性乳がん、卵巣がん(卵管がんや原発性腹膜がんも含む)のリスクが高く、前立腺がん、膵がんのリスクも上昇します。

海外のガイドラインや日本のHBOC診療手引きでは術後放射線治療を要する乳房温存手術は推奨されておらず、手術の際には慎重に術式を選択しております。

卵巣がんには確実な早期発見方法はなく、進行すると予後は不良です。卵巣がん予防のためのリスク低減卵管卵巣摘出術は死亡リスクを減少させることが示されています。その一方でリスク低減手術は正常組織に対する手術ですので、院内の医療者間で議論を重ねリスク低減卵管卵巣摘出術およびリスク低減乳房切除術(未発症側の乳房切除)についても慎重に整備を進めております。現時点では保険診療外の治療となります。「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群:HBOC」の当事者会(患者会)であるクラヴィスアルクス(http://www.clavisarcus.com/)が発足しています。

Li-Fraumeni症候群(LFS)

Li-Fraumeni症候群は閉経前乳がん、軟部肉腫、骨肉腫、脳腫瘍、副腎皮質がん、白血病に関連する常染色体優性の遺伝性腫瘍症候群です。小児期あるいは若年成人期に発症することが多く、また世代を経るごとに発症年齢が若くなると言われています。一般に発がんリスクは40歳までに約1%、60歳までに約10%であるのに対して、LFSでは30歳までに約50%、60歳までに約90%と高率となります。LFSは放射線によって悪性腫瘍が発症するリスクがあるため、可能な限り放射線治療を回避するよう警告されています。当科ではLFSの患者さんにはMRIや超音波検査を用いて新たながんを早期に発見するように検査を行っています。

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