疫学

食道癌は男性の高齢者(60歳台)に多く見られる病気で、毎年10,000人位の方がかかる病気です。現在日本では癌の死亡率のなかで男性の場合6番目です。進行すると治療効果が良くないため、なるべく無症状のうちに発見する必要があります。通常は食道の粘膜から出る扁平上皮癌がほとんどです。

危険因子

50歳以上の男性、②喫煙者や大量飲酒者、③頭頚部癌になった方、④逆流性食道炎によるバレット食道(本来なら扁平上皮で覆われている食道粘膜が胃液や十二支腸液の逆流で胃や腸のような円柱上皮で覆われている状態で腺癌を発生しやすい)

症状

食道癌の初期は多くの場合無症状ですが、食道がしみるような感じや胸がチクチクする感じを自覚することがあります。その後は食事がつかえる、体重が減る、背中の痛み、咳が出る、声がかすれるなどの症状を認めるようになります。

癌の特徴

食道は後縦隔に存在し、漿膜がないため多臓器に浸潤しやすい傾向にあります(図1)。 粘膜下にはリンパ網が発達しており(図2)、たとえ表在癌であってもリンパ節転移を頸部から腹部まで広範囲にしかも高率に発生するため、根治的治療のためには頸部、胸部、腹部の広範囲なリンパ節郭清が必要となります(図3)。高齢者に多く、心、血管、呼吸器、脳神経、代謝疾患などの合併症を有することが多く、進行したものは食物摂取が出来ないため低栄養状態喉頭、咽頭、胃の重複癌症例も多いため手術の前には徹底した術前管理が必要です。 手術侵襲が大きく、術後は集中管理を必要とする再建が必ず必要であり、消化器手術の中でも最難度の手術です。

治療

手術術式
  1. 右開胸開腹食道亜全摘術(標準術式)
      頚、胸、腹の3カ所を開ける侵襲の高い手術。
      手術時間:7~10時間程度
      術後はICUで集中管理。頸部・胸部・腹部に渡るリンパ節郭清をします。
  2. 食道抜去術
      頚、腹の2カ所の創で行う比較的低侵襲な手術ですが、盲目的に食道を引き抜く為に大出血や神経、気管の損傷の危険があります。
  3. 縦隔鏡下食道切除術
      頚、腹の2カ所の創から縦隔鏡を挿入し内部を観察しながら行う低侵襲手術。
      手術時間:3~4時間程度、術後は短期間のみICUで集中管理。リンパ節郭清は今のところ不十分ですがサンプリングは可能。


           縦隔鏡下食道切除術
  4. 内視鏡的食道粘膜切除術
      内視鏡(胃カメラ)で癌部を切除する方法。
      所用時間:1時間程度、リンパ節転移がない早期癌に限られる。
      広範囲に病変があると術後狭窄や穿孔の危険もあり入院で行います。手術は癌の占拠部位によっても違ってきます。


頸部食道癌

頚部食道のみに留まっておれば頸部食道切除と頚部リンパ節郭清術を行い、胃管または空腸移植で再建します。頸部食道が残せない場合は下咽頭喉頭切除術、遊離空腸移植術を行い、永久気管孔を作成しますので発声が出来なくなります。

腹部食道癌

癌が下部食道に留まる場合や腹部食道にある場合は(左開胸・)開腹による下部食道&胃噴門部切除・腹部リンパ節郭清と空腸を用いた再建を行います。

術後合併症

肺合併症,縫合不全が最も多い合併症です。しかしながら近年,術後3~4日間人工呼吸器による管理を行うようになり,肺合併症は減少傾向にあります。また,中心静脈栄養の導入,器械吻合器の導入により縫合不全も減りつつあります。その他の合併症としてリンパ節郭清に伴う反回神経麻痺による嗄声,誤飲,縫合不全などによる縦隔炎などがあります。

化学・放射線療法

扁平上皮癌は放射線への感受性が高く、シスプラチンが有効であることから、手術療法に加えて放射線治療や多剤併用化学療法を組み合わせた集学的治療が各種試みられています。教室ではタキサンとシスプラチン&5FUを用いた化学療法により治療成績が向上し、進行して手術が出来ない状態の患者様も根治手術ができるようになりました。

予後

食道癌は胃癌や大腸癌などと比べるときわめて予後の悪い癌です。高齢多く,かつ解剖学的にリンパ節転移や隣接臓器(大動脈,肺,気管支など)浸潤を起こしやすいことが一因です。
5年生存率35.5%(日本食道疾患研究会:9143例の調査では)下記結果となっております。
Stage I     58.0%
Stage Ⅱ    47.1%
Stage Ⅲ    32.8%
Stage Ⅳ    14.7%

でした。検診による早期発見、化学療法との組み合わせによる集学的な治療により今後予後は改善してくるものと思われます。



↑日本食道疾患研究会 Comprehensive Registry of Esophageal cancer in Japan 2nd edition