1)分類、疫学 日本での有病率は1/1000人
 2)各病理組織型の病態
   ⅰ)乳頭癌 ・・・ 組織学的な基本構築が、乳頭状構造を示す。濾胞上皮由来の腫瘍である。腫瘍細胞の核はスリガラス状が特徴であり核の溝、核内細胞質封入体を認める。また微細な石灰沈着(砂粒小体)をしばしば伴う。頚部所属リンパ節に転移を起こしやすい。一般的に切除後の予後は非常に良好(全癌中最も良好、2倍の大きさになるのに約5年かかる)である。
   ⅱ)濾胞癌 ・・・ 被包性腫瘍であり、組織の基本構築は濾胞構造を示す。時に充実性・索状などの低分化な組織構造をとることがある。被膜侵襲像と脈管侵襲像のどちらか一方をでも確認することが必要で、微小浸潤(被包)型と広範浸潤型の二つに分ける。肺・骨等へ血行性転移を起こし易い。
  ⅲ)髄様癌 ・・・ 傍濾胞細胞(C細胞)由来で特異的な病態を示す。カルシトニンとCEAを産生する。組織診断では、腫瘍細胞内にカルシトニン分泌顆粒又は、間質のアミロイド沈着を証明する。散発型と遺伝型がある。遺伝型は、多発性内分泌腺腫腫瘍症multiple endocrine neoplasia (MEN)2型の部分症として表れ、体染色体優性遺伝である。MEN2A型は、甲状腺髄様癌、褐色細胞腫、副甲状腺腺腫(過形成)の合併で、2B型は、甲状腺髄様癌、褐色細胞腫、粘膜神経腫、Marfan症候群様の体格を合併する。RETプロト癌遺伝子が関与している。リンパ節転移、肝・骨への血行性転移も高頻度に起こる。一般に予後不良である。
  病理
組織型
頻度
(%)
好発年齢
(歳)
男女比 特 徴
乳頭癌 85~90 30~50 1:5 リンパ節転移を起こしやすい。一般には予後良好。ただし、50歳以上の高齢者や低分化型の場合は比較的悪い。
濾胞癌 5~10 非浸潤型は腺腫との鑑別が難しい。浸潤型は血行性転移を高率に起こす。血行性転移の予後は悪い。
髄様癌 1~2 1:25 散発性発生と遺伝型発生(多内分泌腺腫瘍症)がある。遺伝型は両側性に発生する。
未分化脳 2~4 60以上 1:2 きわめて予後不良(ほとんど全員が1年以内に死亡)。古い分化癌の悪性転化で発生する。
悪性
リンパ種
予後が比較的悪い(5年生存率50%)。橋本病を合併することが多い。
   ⅳ)未分化癌 ・・・ 60歳以上の高齢者に多い。大部分は長期経過を経て乳頭癌・濾胞癌からの悪性転化により生じる。疼痛・嗄声(片側反回神経麻痺)・呼吸困難(両側反回神経麻痺)・嚥下障害(反回神経麻痺)、食欲低下・体重減少を認める。極めて予後不良(全癌中最も不良)である。
   ⅴ)悪性リンパ腫 ・・・ 節外性で、殆どがB細胞性の非Hodgkinリンパ腫である。橋本病を合併することが多い。比較的短期間で増大傾向を示す腫瘤で現れる。予後比較的不良。

 3)診断
   膿瘍径が5~10mm以上になると触診上固い結束として触れる。
    ⅰ)乳頭癌 ・・・ 超音波で辺縁不整、内部エコーの不均一、低エコー、微小多発石灰化が特徴。ABCでは、シート状又は乳頭状の細胞集団、腫瘍細胞の核内細胞質封入体や核縁の切れ込み像は乳頭癌の特徴的所見である。
    ⅱ)濾胞癌 ・・・ 正確な濾胞癌の診断は、切除標本(これでも難しい)以外は難しい。転移巣から診断がつくことがある。充実性の超音波所見、ABCでの濾胞性腫瘍細胞、血清サイログロブリンの異常高値は、疑い所見となる。
    ⅲ)髄様癌 ・・・ 甲状腺癌や褐色細胞腫(MEN等)の家族歴・既往歴があるかどうか。CEA,カルシトニン高値。ABCで、紡錐形腫瘍細胞は特徴的である。あ
    ⅳ)未分化癌 ・・・ 6急速に増大する甲状腺腫瘍。ABCにて異形性の強い、結合性の弱い大型の腫瘍細胞が、好中球等を背景に多く採取できる。
    ⅴ)悪性リンパ腫 ・・・ 急性甲状腺腫大。橋本病患者の超音波で分かることもある。ABCで診断はつくが、治療方針のため、免疫学的・遺伝子検査を含む病理組織型診断が必要である。

 4)治療   
腫瘍の種類 治療方針
標準的方針 特殊な場合
乳頭癌 甲状腺亜全摘+患側のmodified neck dissection
術後甲状腺ホルモン薬投与によるTSH分泌抑制療法には賛否両論がある
激しい浸潤性増殖例、多中心性発生例(とくに放射線照射の既往のあるもの)、若年者のびまん性浸潤増殖例、血行性転移を起こしたものには、甲状腺全摘
気管・食堂に浸潤しているものには、気管・咽頭・食堂の合併切除
低分化癌あるいは未分化癌への悪性転化をうかがわせるものには、術後照射・化学療法を併用
濾胞癌
微小浸潤型(被包型):腫瘍を含めて腺腫摘除
広範浸潤型:甲状腺全摘、全身スキャン
血行性転移が認められれば、甲状腺全摘語後、大量投与療法
骨転移、特に疼痛・運動神経麻痺など臨床症状を起こす血行性転移は、可能ならば外科的摘除
髄様癌
散発型:甲状腺亜全摘+患側のmodified neck dissection
遺伝型:甲状腺全摘+両側のmodified neck dissection
褐色細胞腫が合併する時は、先に副腎摘除
副甲状腺が腫大している時は摘除
未分化癌 放射線照射・化学療法を優先
手術療法については賛否両論がある
根治的摘除可能であれば摘除、術後に照射・化学療法
悪性リンパ種 放射線照射・化学療法
手術療法については賛否両論がある
摘除可能であれば摘除してもよい。ただし、手術合併症を起こしてまで摘除する必要はない